先生のビンタで鼓膜が破れた思い出 |
実は私、中学校に入学して間もない体育の授業で、先生に平手打ちされて鼓膜が破れた経験がある。
授業中、先生の話を聞かず、隣の友人と無駄話をしていたのが原因だった。いきなり「前に来い」と呼ばれ、先生の前に出るとビンタされた。今、思い出すと、いきなりビンタというのはどうかと思うが、先生としては、入学間もない生徒全員への「見せしめ」の目的があったのじゃないだろうか。
平手打ちされた瞬間、耳の奥がボーっと鳴り始めておかしいなと思った。だが、「授業中に無駄話をしていた自分が悪いのだ」と、先生を責めるようなことは思わなかった。
家に帰って、夜、風呂場で髪を洗った時、耳の奥に激痛が走った。ここで鼓膜が破れていることを悟った。次の日、耳鼻咽喉科に出かけ、医師が耳の奥をのぞきこむと、やはり「鼓膜が破れています」と言った。傷そのものは浅く、数週間ほど通院したら鼓膜は復元した。その時点においても、「無駄話をした自分が悪い」と先生を責めるようなことは思わなかった。
通院をして一週間ほど経った頃、授業の合間の休憩時間に、女性の保健の先生が深刻な顔つきで近づいてきた。「竹本くん、●●先生にビンタされて、鼓膜が破れたのでしょう?」と。今さら何だか変だなと思いつつも「はい」と答えた。先生の話によると、私の鼓膜が破れた原因は「鉄棒から落ちたこと」になっているらしい。保健の先生は、嘘の報告にかなり憤っているようだった。
その後しばらくして、体育の先生が見舞いの果物セットを持って自宅に訪ねてきた。私はちょうど塾に出かけて不在だった。お詫びの言葉を述べる先生に対して、母親は「いえいえ、うちの子どもが悪いのです」と穏便に対応したらしい。ただ、その対応については母親と祖母の間で、少なからず意見の齟齬があったようだ。
あれから30年が経ったが、あの出来事を思い出すと今なお複雑な気分になる。平手打ちをされたこと自体について、取り立てて憤りを覚えることはない。私だけでなく、同級生も複数の先生からビンタされていたし、当時、学校での体罰は日常の風景で、目くじらを立てるものではなかったから。
体育の先生は、当時、今の私の年齢と同じくらいだろうか。几帳面で不器用な中年男性だった。好きか嫌いかといえば、男性として好きなタイプだ。
ただ、職員室で、几帳面で不器用な男性体育教師が嘘の報告をし、女性の保健教師に詰められる場面を想像すると、当時も今も苦い気分になる。
心の傷とまではいかないが、10代の複雑な思い出だ。うまく表現できないが、カメムシを握った手から、いつまでも嫌なにおいが抜けないような感じ‥‥。