【青森旅行】八甲田雪中行軍遭難の足あとを訪ねて |
映画『八甲田山』、1977年に公開され、テレビのCMで見た北大路欣也がつぶやく「天は我々を見放した」というセリフは、小学生だった当時、クラスの男子の間でもちちょっとしたブームになった。
それから34年、一昨年、会社の幹部研修としてこの映画を見て、マネジメントとリスクヘッジについて討論するプログラムがあった。参加者一同、大いに議論が盛り上がり、以来、一度遭難の地を訪れたいと思っていた。
八甲田雪中行軍遭難事件のあらましについてはこちらのWikipediaに詳しい。
夏の青森旅行の5日目、レンタカーを借りて、市内から八甲田山を目指した。
最初に訪れたのは、遭難者が眠る幸畑墓苑。旧幸畑陸軍墓地。遭難事件の翌年、1903年に創設。遭難者の墓標が整然と並び、当時、植えられた多行松が墓苑全体を囲んでいて、厳粛な雰囲気だ。
下、中央の写真は、映画『八甲田山』で北大路欣也が演じた神田大尉、そのモデルとなった神成大尉のお墓。右下は凍死軍人の慰霊碑。
墓苑の端には、木造の遭難凍死者英霊堂がある。お堂の前には珍しいアイヌ犬の狛犬が。映画では遭難の模様が中心に描かれているが、その後の捜索と救助も困難を極めたらしい。その際、雪山に慣れたアイヌの人々とアイヌ犬が大活躍したという。二頭の狛犬は、捜索で使用したアイヌ犬が八甲田山中で産んだ二頭、八甲とベンケイにちなんでいる。
お堂の中には、当時の軍服姿の210体の木造が祀られていた。
幸畑墓苑の隣には、八甲田山雪中行軍遭難資料館がある。なぜ、雪中行軍が行われたか、日露戦争前の世界情勢、時代背景から、行軍計画、当時の装備、迷走ルート等を、ていねいに解説してある。映画『八甲田山』では描かれていない、捜索隊の活動、当時の世評も展示してあり、非常に興味深かった。
中でも、私がなるほど!と思ったのは、当時の装備のコーナー。現在の陸上自衛隊の冬季装備と比較してあり、真っ白な現在の自衛隊の装備と対照的だった。
そして、当時、日本にはまだスキーが伝わってなかった。1910年にオーストリア=ハンガリー帝国の軍人、テオドール・エードラー・フォン・レルヒ少佐が来日。その際、スキー技術が日本陸軍にも伝えられたらしい。スキー技術が早くに伝わっていたら、これほどの遭難者を出すことがなかったのでは、と書かれてあった。
資料館を後にして、青森歩兵第五連隊が進んだ県道40号線を八甲田山方面に向かった。現在、八甲田山へは、この県道40号線よりも、十和田湖につながる国道103号線「十和田ゴールドライン」を行く方がポピュラーだ。そのため道路は空いており、資料館から雪中行軍遭難記念碑がある「遭難の地」まで、クルマで20分ほどでアクセスできた。
ここは馬立場と呼ばれる地で、仮死状態で直立して立つ後藤房之助伍長の像が建てられている。記念像から見える夏の緑の八甲田からは、雪中の様子を想像することは難しかった。
その後、クルマで第五連隊が一日目に露営した平沢と、二日目に露営した鳴沢を訪ねた。この二つの露営間の距離は1kmもないと思う。雪の中で迷走に迷走を続けたことがうかがわれる。
さて、青森第五連隊が、初日の目的地としたのは田代新湯という温泉地だった。初日の露営地、平沢からは1.5キロ。舗装された道路をクルマで進めばほんの数分の距離だ。このわずか1.5キロが吹雪では命取りになるのか。
ところで、私はてっきり田代にある温泉だから、八甲田温泉が目的地と勘違いしていた。旅から帰って田代新湯を調べてみると、今は山の中にある無人の温泉らしい。こちらのブログ「温泉逍遥」に2009年の情報が、こちらのブログ「あやのぶらり温泉」には2011年の情報が掲載されている。
というわけで、田代平近くにある八甲田温泉でランチタイム。日帰り入浴も可能だが、午後から山の上に向かい身体が冷えるといけないので、湯上がり向けの冷やしそばを食べるだけにした。
畳の食堂では、湯上がりの地元の老人たちが雑魚寝しており、まさに日本のスローライフな昼下がりだった。(続く)
八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)
著者/新田次郎
発行/新潮社
日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強いられた。神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき、大隊長が突然“前進"の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。少数精鋭の徳島大尉が率いる弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。両隊を対比して、自然と人間の闘いを迫真の筆で描く長編小説。(Amazonより)
映画『八甲田山』 特別愛蔵版 [DVD]
監督/森谷司郎
出演/高倉健、北大路欣也、丹波哲郎、三國連太郎、加山雄三他
発売/M3エンタテインメント
明治35年、極寒の八甲田山で雪中行軍を行った青森第5連隊と弘前第31連隊の姿を描く。高倉健、北大路欣也、丹波哲郎など豪華なキャスティングでおくるスペクタルドラマ。(「Oricon」データベースより)